MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2024年4月の紹介

I do not like thee, Doctor Fell

I do not like thee, Doctor Fell,
The reason why cannot tell;
But this I know, and know full well,
I do not like thee, Doctor Fell.
フェル先生,ぼく 先生がきらいです,
わけなんか,わかりません,
でもそうなんです,ちかったっていい,
きらいなんです,フェル先生。

 新学期が始まって,学校に通うみなさんには新しい先生との出会いもあったでしょうか。みなさんにも好きな先生や嫌いな先生がいましたか。このマザーグースでは,理由がわからないけれどフェル先生のことを嫌いだといっていますが,どういうことなのでしょう。

 このマザーグースは,1680 年にイギリスの風刺作家トム・ブラウンが書いたものです。トムがオックスフォード大学のクライストチャーチ学生寮の寮長だったとき,退寮させられになりそうになりました。そこで抗議をしたところ,大学の学部長のジョン・フェル先生から,ラテン語の詩を英語に翻訳する罰を科せられたのです。そのラテン語の詩は,つぎのようなものでした。

 Non amo te, Sabidi, nec possum dicere quare.
 Hoc tantum possum dicere: non amo te,
 私はあなたのことが嫌いだ,サビディウス,それがなぜだかはわかりません。
 私にいえるのは,私はあなたのことが嫌いだということです。

 トムはこの詩をすぐに訳しましたが,ただ訳しただけでなく,「サビティウス」を「フェル先生」に変えて,フェル先生にあてつけをしたのでした。このマザーグースはそのようなできごとから生まれたといわれています。

 理由はないけれど,なんとなく好きになれない,そんな人はいませんか? いまでは,そんな人のことを「Doctor Fell」といいます。実際のフェル先生(Doctor Fell)は,規律正しい人でした。それに対して,トム・ブラウンは奔放な人物で規律や制限が大嫌いだったようです。そんなブラウンにとってフェル先生は,まったくそりが合わない人だったのかもしれません。

 退寮をかけた翻訳の課題を,先生へのあてつけとする訳で答えたブラウンでしたが,退寮は免れたそうです。「フェル先生,ぼく 先生がきらいです」と訳されて有名になってしまったフェル先生は,じつは学生思いのいい先生だったのですね。

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。