MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2019年11月の紹介

Tom, he was a piper's son

トムは 笛吹きのむすこ

Tom, he was a piper's son,
He learnt to play when he was young,
And all the tune that he could play
Was, ‘Over the hills and far away’;
Over the hills and a great way off,
The wind shall blow my top-knot off.

トムは 笛吹きのむすこ,
笛をならったのは ちいさいとき,
おぼえた曲は ひとつきり,
「山こえ谷こえ はるばると」
山こえ谷こえ 遠くはるばる,
風が ボンネットを ふきとばす。

Tom with his pipe made such a noise,
That he pleased both the girls and boys,
And they all stopped to hear him play,
‘Over the hills and far away’;
Over the hills and a great way off,
The wind shall blow my top-knot off.

高らかな 笛のしらべに,
男の子も女の子も うかれて,
立ちどまり ききほれた
「山こえ谷こえ はるばると」
山こえ谷こえ 遠くはるばる,
風が ボンネットを ふきとばす。


 笛吹きのむすこのTomは,“Tom, Tom, the piper's son”にも登場するように,マザーグースのなかでは“Tom”は“piper”に結び付けられています。笛吹きのむすことはいえ,トムが笛を練習してやっと覚えた曲が,“Over the hills and far away”だったのでしょうか。このover the hills and far awayというフレーズは会話のなかでも使われ,ただfar awayといえばいいところをover the hills and far awayと,英語のネイティブ・スピーカーは口に出すこともあるようです。幼いときからこのマザーグースに親しんでいるからでしょう。

 このトムがふく笛は,スコットランドではbagpipe(バグパイプ)のことをいうようです。スコットランドではバグパイプを正式な場で吹くときは,タータンチェックのスカートの服を着て吹きます。タータンチェックは家々に代々受け継がれる柄があって,結婚式などでは男性はタータンチェックのその衣装を着ることもあります。

 top-knot(ボンネット)は,17~18世紀にスコットランドで流行った,女性用の帽子についた羽のことです。トムの笛に子どもたちが踊りだし,帽子についていた羽が風によってとばされるくらい,夢中になって踊っていたということでしょうか。のどかな風景のなかで子どもたちが楽しく過ごす様子が目に浮かびます。


Illustration by W. B. Scott

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。 イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら, うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。 どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。