MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2020年1月の紹介

Jack and Jill

ジャックとジル

Jack and Jillジャックとジル
Went up the hill,おかをのぼった,
To fetch a pail of water;手おけをもって 水くみに。
  
Jack fell down,ジャックがころんで,
And broke his crown,あたまをうった,
And Jill came tumbling after.ジルも ころがりおちていく。
  
Then up Jack got,ジャックはやっと たちあがり,
And home did trot,もときた道を かけだした,
As fast as he could caper;うしろも見ずに おうちまで。
  
To old Dame Dob,ドブおばちゃん,
Who patched his nobジャックのおつむに
With vinegar and brown paper.お酢とざら紙で,しっぷした。
  
When Jill came in,ジルは うちへはいるなり,
How she did grinおもわず にんまり,
To see Jack's paper plaster;見いちゃった ジャックのはりぼてあたま。
  
Her mother, vexed,ジルのかあさん,しかめっつら,
Did beat her next,ついでに ジルのおしりを ペン,
For laughing at Jack's disaster.ひとのさいなん わらっちゃいけない。
  
Now Jack did laughこんどは ジャックが わらうばん,
And Jill did cry,ジルったら ないちゃった,
But her tears did soon abate;ジルの涙は すぐにひっこみ,
  
Then Jill did say,ないたカラスが もうわろた,
That they should playねえ あそぼうよ
At see-saw across the gate.門のところで シーソーこごうよ。

 有名なマザーグースで,イギリスの子どもにも人気があります。子どもが走り回っているときに大人がこのマザーグースを唱えて,転ばぬ先の杖をつく様子が目に浮かびます。

 19世紀のはじめに1連ずつchapbook(イギリスで発行されていた大衆向けの小さな冊子)に描かれて流行しました。丘の上に水汲みに行ったり,傷にお酢を塗ったりといった不思議な部分に,さまざまなイメージができるからでしょうか,いまでも人気のあるマザーグースです。ジャックが壊したcrownですが,これは王冠ではなく頭の意味です。王冠がある部分,つまり頭。ドブおばちゃんが使ったvinegar and brown paperは,お酢と油紙のことです。酢には殺菌作用があるのでそれを塗り,油紙で覆って手当てしたというわけです。

 「ジャックとジル」は,日本でいえば「太郎と花子」のように男の子と女の子のペアを意味します。詩の内容からすると,この二人は兄妹のようですが,男の子同士と描いている北欧の物語もあります。泣いたり笑ったり,けんかしたり仲良くしたり,とても子どもらしいジャックとジルは,みなさんの周りにもいるのでは?


【画像】“The baby's opera” by Walter Crane, 1900.

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。