MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2020年9月の紹介

Little Tommy Tucker

トミー・タッカー

Little Tommy Tucker,
 Sing for his supper:
What shall we give him?
 White bread and butter.
How shall he cut it
 Without a knife?
How will he be married
Without a wife?

トミー・タッカー
 ごはんのうた
なにたべさせよう?
 バタつきパン
なにできりわける?
 ナイフはない
女房いなけりゃ
けっこんしてない

 Tommy Tuckerは有名なマザーグースの登場人物で,よく孤児につけられた名前のひとつです。孤児は食事の前になると家の前に立って,食べ物をもらうために歌を歌ったと言われています。

 ほかにも,その昔,家の軒先で歌を歌ってその日の食事を手に入れていた流しの歌い手を歌ったものともいわれています。歌うとバターつきのパンをもらうけれども,ナイフがなければ切れない。「ナイフを使って食べるような,まともな食べ物をくれよ」と要求したいけれども,ナイフもないようなこんな稼業じゃ,女房も探せないから結婚もできない,という意味のオチをつけています。

 supper/butter,knife/wifeと韻をふんでいます。マザーグースでは,行の最後の単語の語尾を同じ(または似た)音をもったことばに合わせるのが一般的です。イギリスやアメリカなどの語圏の人びとは,このような押韻(rhyming)をふくんだマザーグースを,子どものころから繰り返し唱え続けています。英語には日本語にはない独特のリズムがありますが,それを身につけるにはマザーグースは最適の素材です。詩の内容を味わいながら,英語のリズムを楽しんでください。

 Illustration by William Donahey

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。