MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2020年12月の紹介

Simple Simon

シンプル・サイモン

Simple Simon met a pieman,
 Going to the fair;
Says Simple Simon to the pieman,
 Let me taste your ware.
シンプル・サイモン パイうりにあった,
 これから 市場へいくところ,
シンプル・サイモン パイうりにいう,
 おら あじみをしてえな。
  
Says the pieman to Simple Simon,
 Show me first your penny;
Says Simple Simon to the pieman,
 Indeed I have not any.
パイうり シンプル・サイモンにいう,
 さきに おあしを見せねばだめだ
シンプル・サイモン パイうりにいう,
 まんず おら いちもんなしだ。
  
Simple Simon went a-fishing,
 For to catch a whale;
All the water he had got
 Was in his mother's pail.
シンプル・サイモン つりにいった,
 クジラさ いっとう つりてえな,
うみさどこかな さがしまわって,
 かあちゃんの手おけ 見つけた。
  
Simple Simon went to look
 If plums grew on a thistle;
He pricked his fingers very much,
 Which made poor Simon whistle.
シンプル・サイモン 見たくて 出かけた,
 プラムが アザミに なるかどうだか,
おかげで ゆびは とげだらけ,
 みじめなサイモン 息ふきかけた。
  
He went for water in a sieve
 But soon it all fell through;
And now poor Simple Simon
 Bids you all adieu.
ふるいをもって みずくみに
 いくらくんでも こぼれてしまう,
というわけで みじめなサイモン
 んだば みなさま ごきげんよろしゅう。

 このシンプル・サイモンは有名なキャラクターです。シンプル・サイモンを辞書で引いてみると,"a stupid person who believes everything he is told(いわれたことを何でも信じてしまうまぬけな人間)"とありますので,シンプル・サイモンはマザーグースの世界に限らない人物といえます。simpleとは,単純というよりは,「まぬけな」「うすのろ」「だまされやすい」という意味です。このマザーグースのなかのシンプル・サイモンは,なんとも憎めないキャラクターで,英語圏の人々に愛されていると言えるでしょう。

 このマザーグースには15連もの長いバージョンもありました。サイモンがウサギを狩りに,ヤギに乗って通りを行って探せなかったり,サイモンが肉を買いに行って,馬のお尻にくくりつけてきれいにして甘くしたり,といったように,サイモンがとんちんかんなことを続けていくさまに,イギリスのナンセンスを感じることができます。17世期には,結婚した翌日から妻に残酷な仕打ちを受け,おかしくなってしまうサイモン,というストリーもありました。

 サイモンは市場に行く途中でパイ売りに出会いました。19世紀のロンドンには店をもたない「呼び売り商人」という職業があり,パイをはじめさまざまな食べ物を売っていて,彼らが売っていたものは,いわば当時のファーストフードとも呼べるものだったそうです。イギリスのパイは果物だけでなく野菜やお肉,魚を入れたものもあり,クリスマスにいただくのはドライフルーツを詰めたミンス・パイです。シンプル・サイモンが味見をしたかったパイは,いったいどんな味だったのでしょうね。

【画像】“Simple Simon” by William Denslow

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。