MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2022年8月の紹介

The Queen of Hearts

 The Queen of Hearts
 She made some tarts,
All on a summer's day;
 The Knave of Hearts,
 He stole the tarts,
And took them clean away.
 The King of Hearts
 Called for the tarts,
And beat the knave full sore;
 The Knave of Hearts
 Brought back the tarts,
And vowed he'd steal no more.
 ハート国の女王さま
 タルトをつくりました
ある夏の日のことでした
 ハート国の悪漢
 タルトをぬすんで
すたこらすたこらにげました
 ハート国の王さま
 タルトをさがしにいかせ
悪漢をたたきのめしました
 ハート国の悪漢
 タルトをおかえしして
二度と盗みませぬとちかいました

 トランプのハートの女王のナンバーは12で,キングとジャックの間に位置します。イギリスやアメリカで作られるトランプに描かれるハートの女王は,イングランド王ヘンリー7世(1457-1509)の王妃である,エリザベス・オブ・ヨーク(1466-1503)がモデルだといわれています。

 このマザーグースは1782年に発行された「The European Magagine」によって,広く知られるようになりました。その後,物語絵本「The King and Queen of Hearts.」(作:Charles Lamb)に84行もの長い詩となって登場しています。その長い詩を参考にしたといわれているのが,ルイス・キャロルのファンタジーの名作『Alice In Wonderland(ふしぎの国のアリス)』のハートの女王です。

 女王の焼いたタルト(パイ)を盗んだと,ハートのジャックが裁判にかけられます。進行係の白ウサギが罪状としてこのマザーグースを読み上げることから,ハチャメチャな裁判が始まります。「Knave of Hearts」は「ハート国の悪漢」と訳されていますが,「ハートのジャック」という意味もあります。ですから,タルトを盗んだ犯人はジャックだというわけですね。

 「ハートの女王と言えばタルト,タルトと言えばハートの女王」と,英語圏の人々はすぐに思い浮かべるのは,この『ふしぎの国のアリス』の影響だそうです。ハートの女王が焼いたタルトはどんな味がしたのでしょう?

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。