MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2024年3月の紹介

Hector Protector was dressed all in green

Hector Protector was dressed all in green;
Hector Protector was sent to the Queen.
The Queen did not like him,
No more did the King;
So Hector Protector was sent back again.
ヘクター・プロテクター緑のよそおい
ヘクター・プロテクター女王様のおめし
女王様のお気にめさず
王様のお気にめさず
ヘクター・プロテクターおはらいばこ

 ヘクター・プロテクターが身にまとっていた「green(緑)」には特別な意味はないようで,つぎの行末の「Queen(女王様)」に韻を踏ませるためのようです。「ヘクター」はギリシャ神話やローマ神話の英雄「ヘクトール」の英語読みです。「プロテクター」は守護する人のことを意味します。ですから「ヘクター・プロテクター」は,「女王様の護衛人」ということでしょうか。にもかかわらず,お払い箱とはいったいどうしたのでしょう。

 ヘクターのモデルは,第3代ヨーク公・リチャード・プランタジネット(1411-1460)だといわれています。王妃や貴族層に人気のなかったリチャードは,二度もアイルランドに追いやられ,イングランド王室の権力闘争に負けました。お払い箱になったとはそれを意味するのでしょうか。ちなみにリチャードは国王に慣れませんでしたが,彼の長男エドワード4世と,次男リチャード3世(シェイクスピア『リチャード3世』のモデル)は国王となることができました。

 絵本の巨匠と呼ばれるアメリカの絵本作家・モーリス・センダックは,このマザーグースをタイトルに入れた『Hector Protector and As I Went Over the Water(ヘクター・プロテクターとうみのうえをふねでいったら)』(1965)を描いています。センダックがふたつのマザーグースをヒントにこの絵本を作りました。ナンセンスな内容の多いマザーグースには,作家がイメージして描きたくなる魅力があるようです。

 アイルランドでは3月17日に,キリスト教を広めた聖パトリックの命日を祝う「St. Patrick's Day(聖パトリックデー)」があります。聖パトリックデーでは人びとは,希望と自然,そして春の訪れを表わす緑色の洋服や帽子を身につけ、緑のビールや料理などでお祝いします。首都ダブリンでは,4日間に渡ってフェスティバルやパレードが行われます。かつては宗教的の濃い祝日でしたが、いまではだれでもが楽しめるオープンなお祭りとなっているそうです。

 【画像】“A Chronicle of England” by James William Edmund Doyle
 ヨーク公リチャード(左)を反逆罪で告発するヘンリー 6 世(右)とサマセット公(中央)

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。