白百合女子大学教授
東京外国語大学名誉教授
田島 信元
TAJIMA NOBUMOTO
白百合女子大学教授
東京外国語大学名誉教授
田島 信元
TAJIMA NOBUMOTO
ラボ教育プログラムは,子どもたちにとって,外国語の歌やお話をどういうふうに自分たちで表現するかという活動が中心的な目的となり,仲間といっしょに協力しディスカッションすることで達成していきます。その中で外国語がふんだんに使われます。そして繰り返し活動を楽しむうちに,ことばについてもイメージできてくるのです。「なるほど,こういうときには,こういうふうに表現するんだ」とわかってくる。これが母語習得過程といっしょなのです。
それから,このような対話,表現活動にもとづく「聞く話す」という経験を十分に楽しんでいないと「読み書き」は導入しない,という方針がまた重要なのです。「読む書く」ことで「聞く話す」は充実していきますが,文書と対話とでは,人間の本性的なパターンでは,対話から得ることのほうがはるかに多いのです。「外国語を母語的な道具として,その外国語を母語とする人との対話をとおして,外国語で思考し,レスポンスができる」こういう方法ですと,外国の人々が考えている生の知識がどんどん入ってきます。対話は話すほどに知識が新しくなっていきます。子どもたちにはこういう体験をしてほしいと思います。
ところで,外国語教育を行う最終的な目標は何でしょうか? 小学校1~2年生で外国語がどんどん話せても,そうは役に立ちません。ほんとうの目的は,仕事や旅行などのコミュニケーションの場面で,外国語を実際に使うこと自体に興味をもつかどうか,また,こういう場面になったときに実際に使えるかどうかです。そしてこれらの目的は,最終的には中高生以上になって達成すればよいのです。量ではなく質のともなった活動,つまり外国語で考えたり,ストーリーを表現してみるという活動,これを自然なかたちではじめられるのは,幼児期・小学校低学年ぐらいまでです。この年代は母語自体を獲得している時期ですので,それにあわせてたいへんスムーズにできます。
つまり,良質な外国語教育ははやくはじめたほうがいいということです。
PROFILE
1946年生まれ。白百合女子大学教授,東京外国語大学名誉教授。ラボ国際交流センター評議員,ラボ言語教育総合研究所共同代表。東京大学大学院教育学研究科修士課程終了(発達心理学専攻)。博士(人間科学)。
北海道大学教育学部付属乳幼児発達臨床センター(北大幼児園)にて研究のため10年間子どもたちの保育にあたるとともに,日本国内及びアメリカ合衆国のさまざまな幼児教育プログラムを調査・検討し,乳幼児の発達についての研究を長年続ける。主な著書に,『発達心理学入門ⅠⅡ』(東京大学出版会),『育つ力と育てる力』(ラボ教育センター),『大人になったピーター・パン-言語力と社会力-』(共著,アートデイズ)ほか多数。