MOTHER
GOOSE今月のマザーグース

2025年8月の紹介

I won't be my father's Jack

I won't be my father's Jack,
I won't be my mother's Jill,
I will be the fiddler's wife
And have music when I will.
T'other little tune, t'other little tune,
Prithee, love, play me t'other little tune.
父さんのいうこときかないもん
母さんのいうこときかないもん
バイオリンひきのお嫁になって
あの曲この曲ひいてよねって
いとしいあたしにひいてよねって

Jack and Jill”(2020年1月紹介)などでおなじみの、マザーグースによく登場する名前、JackとJill。
日本で言うところの「太郎さん」「花子さん」のような、誰もが知っている親しみのある名前です。
詩の最初は、まるで小さな子どもが「やだやだ!」とじだんだを踏んでいるような場面が浮かんできます。"won't"や"will"を強く読むと、なおさらその“主張”が伝わってくる感じがしませんか?読むときの声の調子ひとつで、印象もガラッと変わるのが面白いところです。

また、この詩の中に出てくる「バイオリンひき」は“fiddler”と訳されています。
「あれ? Violinistじゃないの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

実は、FiddleもViolinも、同じ楽器(バイオリン)を指しています。
ただ、ことばの使われ方にちょっと違いがあって、Violinはクラシックやオーケストラなどフォーマルな演奏の時によく使われる言い方です。一方Fiddleは、カントリーやフォークミュージックなど、もっとカジュアルで親しみのある音楽を演奏するときによく使われます。
マザーグースの詩は、昔から口伝えで広がってきたものなので、こうしたカジュアルな表現が多いのかもしれません。
ちなみに、"Hey diddle diddle"(2017年9月紹介)や"Old King Cole"(2022年9月紹介)にも“fiddler”が出てきますよ。

この詩から感じられるのは、「子どもは子どもなりに、自分のやりたいことがあるんだよ」というちょっとした反抗心や自由への憧れ。
「お父さんにもお母さんにもなりたくない。私は私が好きな道を選ぶの!」という小さな声が聞こえてくるようです。
親の言うことにただ従うのではなく、自分の「好き」を大切にしたいという思い。
思わずクスッと笑ってしまうような可愛らしさの中に、ふと考えさせられるメッセージがある、そんな詩です。

「自分で選ぶ」「自分で決める」。
それはきっと、大人に向かって踏み出す、小さな一歩なのかもしれませんね。

マザーグースとは,英語圏の子どもたちの間で古くから伝承されてきたわらべうたのことです。イギリスではナーサリー・ライム(Nursery Rhymes)と呼ばれています。親から子どもへ,子どもからお友だちへ,また子どもからその子どもへと,時代や伝える人によって少しずつ変化しながら,うたいつがれてきた「古くて新しいうた」です。マザーグースは,うただけでなく早口ことば,なぞなぞ,昔ながらのイギリスの風俗・習慣を伝えるもの,人を皮肉ったもの,ナンセンスなど様ざまな種類があります。どれも韻をふんだり,くり返したりと英語の「音」や「リズム」が心地よく,思わず口にだして唱えたくなるものばかりです。